いつごろからか、その少女は
たまごを持っていました。
いつか孵ると信じてあたため続ける少女に、
いつしか周りがいらだち始めます。
「いつまで待っても孵るわけがない」
誰かが言いました。
「中身はどうせ空っぽだ」
別の誰かが言いました。
それでも彼女はたまごをあたためるのをやめません。
たまごを抱きながら歩く少女の足を、
人はそれぞれ引っ張りました。
「そんなことするくらいなら
もっと役に立つことをしなさい」
女の子の父親が言いました。
「いつまでも逆らい続けるならもうごはんもあげません」
母親が言いました。
悪い事のように責められ続け、力をなくした少女。
人はその手からたまごを奪うと割ってしまいました。
硬い音を立てて割れるたまご。
中身は……ありません。
「見ろ! 空っぽだ!」
勝ち誇ったように叫びます。
「ほら、はじめっから孵るわけがなかったのに」
「こうなるのはわかってたんだ」
口々に投げつける言葉。
人々は嬉々として声を出しました。
……自分たちが、
たまごから中身を奪っていたことにも気づかずに。