0132
2006-02-10
百代の過客
 過疎の進んでいたわが村に、
最近若い人たちが越してくるようになった。
住むもののなくなった家に明かりがともり、
人の気配があふれている。
 今までは年寄りばかりで珍しいばかりだったが、
逆に今ではわたしのほうが稀有な存在に見られるようだ。

 そしてある日、事件は起こった。
すこし離れた家に警察が来たのだ。
「なにかありましたか?」
 若い人たちに囲まれる敷地をのぞき込むと、
「雨どいを修理していたら、こどもの歯がでてきたらしいですよ」
「それで調べたら、軒下からも歯が出てきて……。
どうも殺人事件みたいです」
 そこにいた人が教えてくれた。

 驚いてわたしは立ち入り禁止のロープのそばに行き、
警察官を呼んだ。
「殺人事件なんてとんでもない。あれはおまじないですよ」
「おまじない?」
 若い警官は眉を寄せる。
「こどもの歯が抜けたら、下の歯は上に伸びるように屋根へ、
上の歯は下を向いて伸びるように軒下へ投げるんです」
「へえ、なるほど」
 名前と住所を聞かれ、その夜。

戸を叩く音に表に出ると、いかつい顔をした若い男が
何人も立っていた。
「もうしわけありませんが、ご同行願えますか」
「どうしました?」
「あの事件について、なにかご存知ですよね? 
捜査を攪乱しようとした理由について、
署の方でゆっくりお話を伺いたいのです」