「ねえ、好きな人っている?」
ゼミのコンパの帰り道、一緒になった子に訊かれた。
今まで何度か訊かれた問いだ。
「まあ、いるよ」
と答えたおれは当時中学生。
訊いてきたのは気になっていた女の子だ。
まさか本人を目の前にして、
君が好きだなんて言えるわけもなく。
そして後、高校の頃同窓会でその女の子本人は語った。
『実は中学校の頃ね、結構好きだったんだよ。
でも他に好きな人がいるっていうからあきらめちゃった』
何度でも言えるが、
おれは『他に』好きな人がいるなんてことは言っていない。
そこで、
「いないよ」
と次に答えたおれは高校生。
訊いてきたのは別の気になっていた女の子だ。
だがその後進展はなく、大学のとき同窓会でその子は語った。
『ほんとは高校生のとき、すごく好きだったんだ。
でも、好きな人なんていないって言われて、
ちょっと泣いちゃった』
……ならばいったいどう言えと?
そして大学で悩むのが今のおれ。
目の前にいるのは気になる女の子だ。
おれは言う。
「その質問には答えられない。どう答えても不公正だ」