0336
2006-04-13
邪道と正道
 コーヒーを飲むと思い出すあのころ。
 高校のお昼、いつも缶コーヒーで
ブロック栄養食を食べている男の子がいた。
「それで、飽きないの?」
 友達が訊くと、
「飽き飽きだ」
 微妙な顔で笑った。それからコーヒー談義。
「なんでいつも同じコーヒーなの?」
「これが一番甘くてうまいんだ」
 飲みかけの缶をゆする。
「コーヒー好きなら、豆あげよっか? 
このまえ貰ったいいのが余ってるし」
「いや、いいよ。コーヒーなんてインスタントでいい。
それよりなにより、やっぱ乳飲料じゃなきゃな」
 へええ、コーヒー好きな人はやっぱりブラックで飲むんだ……。
感心するわたしの横で、
「それ、コーヒーじゃないって」
 友達の突っ込み。

「え?」
「甘い上に牛乳ってコーヒー牛乳じゃないの。そんなの邪道〜」
 ああ〜、乳飲料。乳飲料だったんだ。
 すると彼はにこりと笑みを見せて、
「豆の煎り方に挽き方。ぬるいお湯で出すとか、
他に何もいれずに飲むとか。うまくも何ともないもの、
正道だからって飲むまでもない」
 そして缶をつかむと、
「たとえ邪道だのなんだの言われても、おれは一番うまく飲む。
だから、おれのコーヒーはこれでいい」
 おいしそうに缶を傾けた。
 それがなんだか彼らしく。
ちょっと笑って、それにちょっとうらやましくなった。