コーヒーを飲むと思い出すあのころ。
高校のお昼、いつも缶コーヒーで
ブロック栄養食を食べている男の子がいた。
「それで、飽きないの?」
友達が訊くと、
「飽き飽きだ」
微妙な顔で笑った。それからコーヒー談義。
「なんでいつも同じコーヒーなの?」
「これが一番甘くてうまいんだ」
飲みかけの缶をゆする。
「コーヒー好きなら、豆あげよっか?
このまえ貰ったいいのが余ってるし」
「いや、いいよ。コーヒーなんてインスタントでいい。
それよりなにより、やっぱ乳飲料じゃなきゃな」
へええ、コーヒー好きな人はやっぱりブラックで飲むんだ……。
感心するわたしの横で、
「それ、コーヒーじゃないって」
友達の突っ込み。
「え?」
「甘い上に牛乳ってコーヒー牛乳じゃないの。そんなの邪道〜」
ああ〜、乳飲料。乳飲料だったんだ。
すると彼はにこりと笑みを見せて、
「豆の煎り方に挽き方。ぬるいお湯で出すとか、
他に何もいれずに飲むとか。うまくも何ともないもの、
正道だからって飲むまでもない」
そして缶をつかむと、
「たとえ邪道だのなんだの言われても、おれは一番うまく飲む。
だから、おれのコーヒーはこれでいい」
おいしそうに缶を傾けた。
それがなんだか彼らしく。
ちょっと笑って、それにちょっとうらやましくなった。