どこぞの社長が部下をもてなそうと自宅に招き、
自分の好物を振舞った。
「さあ、存分にやってくれたまえ」
なべに刺身、酒蒸しにした牡蠣。
酒も選びに選び抜いた上等のものだ。
だが、部下は手を出さない。
「どうした、遠慮はいらんぞ」
さらにすすめると、
「あの……申しわけありませんが、苦手なのです」
「なんだって!」
社長は叫んだ。
これほどわたしが愛し、これ以上ないほど甘美ですばらしい
食べ物を苦手に思う人間などいるわけがない。
そこで彼は部下に言った。
「おまえは間違ってる。どこか頭がおかしいんじゃないのか?」