とあるところに昼真っから酒を飲み、
女房の稼ぎはばくちと酒に費やし、
道を歩いては道行く人に悪態をつく男がいた。
雨の日。めずらしく競馬で稼いだ男は、
きまぐれに道で震える子犬を抱き上げ、
食べ物をやり、ひさしの下に置いた。
それを見た人は思った。
『あの人はほんとはいい人だったんだ』
またとあるところに、仕事には手を抜かず、
実直に働き続けた礼儀正しい男がいた。
だが稼ぎは良くなく、病気の妻の治療費も底をつきかけていた。
ある日。回覧を持って行った留守の家に、
大金がそのままおかれているのを見て
気の迷いから持ち出してしまった。
彼が捕まると、周りの人間は思った。
『あの人はほんとは悪い人だったんだ。
油断させるためにいい人の振りをしていたに違いない』