0488
2006-06-01
赤い女の子
 おとなりのおねえちゃんのうちでおやつを食べていたら、
鼻のあたりがむずっとして何か抜けていく感じがした。
「あ……」
 ばだばだばだっ。
 見るあいだにテーブルの上にたくさんの血が落ちた。
 ティッシュ、ティッシュ……!
 探そうとして振り向いたらまた落ちそうになって、
あわてて手をあてると手のひらに赤い雫が何個もおちた。
それに、服にも。
 ティッシュは全然見つからないし、
こぼれそうになって手を代えても足りない
くらいどんどん出てくる。

「おねーちゃぁん……」
 こぼさないように気をつけながら廊下に出て台所へ。
「おねーちゃあぁん」
 いなくて戻っていると、
「どうしたの?」
 トイレから、声。
 ようやくすこしほっとして、
「どうしよう、血、出た。服も汚れちゃった……」
 赤黒く染まる手、血に浸る服に泣きたくなっていると、
「おめでとう」
 ドアの向こうから嬉しそうな声。
「え? なんで?」
 ききかえすと、
「女の子はそうやってきれいになっていくんだよ」
 ……鼻血まみれで?

「ちょっと驚いたかもしれないけど、だいじょうぶ。
女の子ならたいてい経験することだからね」
 それって、もしかして?
「あ、違うよ〜」
 水の音がして、開いた扉の向こうにおねえちゃんの姿。
「え、なに? どうしたの!?」
 わたしを見るまで柔らかに笑っていた顔が驚きに変わる。
「はなぢ出た〜」
 するとなんだか複雑な顔で笑って、
白い指でわたしの鼻を押さえた。
「ごめんね、勘違いで」
 洗濯機から戻ってきたおねえちゃんが
照れ笑いでわたしの横に座る。
 おねえちゃんのいいにおい。
わたしを包むぶかぶかの服と同じにおい。
「ん〜ん」
 そっとよりかかると、わたしの頭をあたたかい手が
優しく撫でた。
 おねえちゃんが言ったみたいなのが
いつの日にわたしに来るかはわからないけど、
たぶんその日が来てもきっとだいじょうぶだと、
なぜだかそう思った。