0490
2006-06-01
専門家
 ひさしぶりの友達たちと、ちょっと飲み屋で食事。
 お酒が入ってだんだん話しも適当になり始める中、
ふと誰かが訊いた。
「ねえ、ひとつだけ願いがかなうとしたら、なんにする?」
 願いかぁ、そうだなあ……。
「すてきな彼!」
「ああ〜、わたしが言おうとしたのにぃ」
「そんなもんより、お金よお金」
「うわー、夢がなーい」
 なんかもうぐちゃぐちゃで無駄に笑い合ってる中で
うつむいてグラスを抱えている一人。

「ねえ、あなたは?」
 肩に手をかけてひきあげると、
「んぁ〜? そんなの、全国のジュースの自動販売機で、
缶入りコンドームを売り出すことだよ」
 目のすわった顔をぐらりとゆらした。
「普通のジュースと同じ大きさの缶にコンドーム入れて、
たとえば缶のデザインをいろいろ変えれば集めて楽しいし、
だれが買うにも抵抗なくなると思うのに。
ピル飲んで妊娠さければいいとか、そんなもんじゃないんだよ。
病気もあるでしょ、病気も。ちゃんと使いなさいよ、コンドーム」
「なーにー、こんなときまでそれ? まじめすぎー」
 彼女といつも一緒にいる友達が笑う。
 ああ、そういえば彼女はそっちの専門家だったんだっけ。
 いつでも気にかけてるんだなあと感心したけれど……
さすがに人ごみの中でそんな単語を連呼するのは
やめてほしいと思った。