定年退職を向かえ、久しぶりの友人が訪ねてきた。
「どうだい、調子は」
「今まで毎日仕事に向かっていた時間を家で過ごしてるなんて、
正直手持ち無沙汰だよ」
そう言うわたしに、
「おまえも趣味をもてばいいんだよ」
奴はそう言って笑った。
「なんだ、なにかやってるのか?」
訊ねると、得意げな笑みを浮かべ
胸ポケットからタバコの箱を出した。そのフィルムの間には写真。
「ほら、こういうのを作ってるんだ」
そこに写っているのはタバコの箱と、
それと同じくらいの大きさの人形。
「ほおぉ」
わたしは思わずうなった。
「すごいな、これは。こんな小さいのに着物まで着て、
まるで人間みたいなべっぴんさんだ。
こんなのが作れるものなのか?」
「はははは」
奴はくわえたタバコに火をつけて。
「いいだろう? おれが作ってるのはタバコの箱。
そっちはほんとの人間さ」