舞台裏に息をひそめるわたし。
壁や暑いカーテンをくぐって、
こもったマイクの声が微妙に響いてきていた。
バチバチバチバチ。
声がやむと拍手の音。
知らない制服の人が階段を降りてくると、
わたしの隣の男の子が立ち上がった。
「緊張するなよ、がんばれ」
その子の顧問の先生っぽいヒゲの人が肩を叩く。
でも男の子はぎくしゃくと階段を上っていき、
スピーチがはじまった。
緊張するから他人のは聞かないでいようと思うのに、
どうしても耳に入ってきてしまう。……ぼろぼろの話が。
そこかしこでつっかえつっかえ、
話の間にも『あー』とか『うー』とか聞き苦しいつなぎが大量に。
でも、あれは何分か後のわたしの姿なのかもしれない。
ああ〜、やだよぅ。あんなところで見世物になるなんて。
こんな大勢の前で恥かくなんて思ったら、
なんだかおしっこもれちゃいそう。
「あ、どこ行くんだ? もう次だぞ」
付き添いの先生が言う。
「トイレです、トイレ」
逃げるようにトイレに向かうと、その前に知ってる姿があった。
「あ……先生」
前に教育実習でうちのクラスに来たひと。
「ほんとに来てくれたの?」
「もちろん。かわいい元教え子の晴れ舞台だもんね」
にこっと笑う顔になんだかとても切なくなって。
「でも、来なかったほうがよかったかも知れない。
わたしきっと失敗するよ。もうこのまま帰っちゃいたい」
すると先生はわたしを体に引き寄せて、
「なーに言ってるの。だいじょうぶだよ」
頭を撫でながら言った。
「今までどんなことした? いっぱい練習したんでしょ?」
「うん」
「ならだいじょうぶ。そんなにがんばったんだもん、
できないわけがないじゃない」
「……そかな」
「そうだよ、そう。わたしが保証する」
わたしはぷっと噴き出して、一歩後ろに下がる。
「先生、意外とうそつきだよね」
すると先生はすこし驚いた顔をして、いたずらっぽく笑った。
「でもわたし、信じちゃうよ?」
「うん」
「じゃ、行くね」
後ろを向きかけると、
「あれ? トイレは?」
「ひっこんじゃった」
くすくすと楽しそうに息をこぼして、
「じゃあ、行ってらっしゃい」
柔らかな声でわたしを押した。
わたしは精一杯の笑みで応える。
「行ってきます!」