「そうそう、〜〜ってさぁ」
社員食堂、後ろから聞こえた言葉に意識がひかれる。
今、おれの名前が出なかったか?
「なんでいつもあんなに偉そうなんだろうね」
「ああ、うん! 役職かっての」
それから下卑た笑い。
なんだか急激に食欲を失ったが、
なんとかむりやりつめこんで席を立った。
「なあ、ちょっと訊いていいかな」
家に帰ってから彼女に電話。
すこし遅かったけれどどうしても訊きたかったし、
なにより声が聞きたかった。
「どうしたの? かけてくるなんてめずらしいね」
聞く限りは明るい声。でも、本当は?
その後ろでは何を思っているんだろう。
「……どうしたの?」
「ん……」
あらたまって訊かれると言いにくい。が、何とか口を開いた。
「なんで、おれなんかと一緒にいてくれるんだ?」
「こら。わたしにはいつも、
『自分のことを「なんか」で言うな』って言うくせに」
こどもをたしなめるような口ぶりで、いたずらっぽく笑う声。
ふと間があき、
「なにか、あったの?」
「ん。今日食堂入ったら同じ部屋の女二人が話してるのが
聞こえて。おれがやけに偉そうだってだって言ってた」
「あははっ、なーに、それ?」
笑った。なんの、含みもなく。ただ冗談を聞いたみたいに。
「なんで。そう、思わない?」
「思わないよ。だって、いつも優しいし」
柔らかな言葉に、どん と胸を叩かれたような感覚。
「な、なんだよ、それ」
「あ、照れてる?」
からかうような、でも嫌味ではない、胸をくすぐる響き。
「あはは、かわい〜!」
「なんだよ、やめろ〜。こっぱずかしい」
ひとしきり笑ったあと、笑い疲れたように ふう、とため息。
「でも、ほんと。わたしはそんなこと思わないけどなあ。
……それはもう、人のみかたの差なのかもね」
そして、芯のあるはっきりとした口調で。
「でも、他の人みんながあなたを悪く言おうと、
あなたがわたしを支えてくれるように、
わたしだけはいつだってあなたのみかただからね」
胸の奥にこみ上げるものに、
喉がつまって何も言えなくなってしまった。