「なんかさぁ」
夜の居酒屋でため息をつき、友人は言った。
「最近、だめなんだよ」
「だめってなんだよ。そっちは会社も上向きだし、
調子よさそうじゃないか」
「嫁さんが最近すごく不機嫌なんだよ」
「あの美人さんだろ? いいよなあ。
もう結婚してから一年くらいだっけ?」
「そうだろ? おれだって嫁さんは好き……愛してる」
「ああ、はいはい。ごちそうさま」
でもあいつはビールのジョッキをぐっとあおって。
「でもさ、たたないんだよ」
「うん?」
「事に及ぼうとすると、息子が青菜に塩」
「なんで。もったいない」
「それなんだよ〜」
頬杖をついて酒臭い息をこぼす。
「なんか、なまぐさいんだよな」
「あそこ?」
「いや」
首を振って、さらにひねりながら、
「なんていうかさ、違うんだよ。
なんか血くさいっていうか、なんだろなあ。
嫁さんの存在自体がなまぐさいって言うかさあ。
エロスを感じるとか、そんなんじゃない気がするんだよ。
……って言ったら口きいてくれなくなった」
「はははは」
「女として魅力がなくなったのかって怒るけど、
そう言ってるんじゃないんだ。
女性としてもすばらしいひとだと思うよ。
でも、そんなんじゃない。もっと、大切にしたいっていうか、
守りたいっていうか……。なにかなあ。わかんないかなあ」
「ははは、わかるわかる」
「ほんとか!」
ぎらっと目を光らせて、おれに身を乗り出してきた。
「なんなんだよ。なんて言えばわからせられるんだ?」
「お前も言ってたけど、きっとエロスの問題だ」
おれは言う。
「エロスがストルゲーになったんだろ」