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2006-08-04
エロスの旅
「なんかさぁ」
 夜の居酒屋でため息をつき、友人は言った。
「最近、だめなんだよ」
「だめってなんだよ。そっちは会社も上向きだし、
調子よさそうじゃないか」
「嫁さんが最近すごく不機嫌なんだよ」
「あの美人さんだろ? いいよなあ。
もう結婚してから一年くらいだっけ?」
「そうだろ? おれだって嫁さんは好き……愛してる」
「ああ、はいはい。ごちそうさま」
 でもあいつはビールのジョッキをぐっとあおって。
「でもさ、たたないんだよ」
「うん?」
「事に及ぼうとすると、息子が青菜に塩」
「なんで。もったいない」
「それなんだよ〜」
 頬杖をついて酒臭い息をこぼす。
「なんか、なまぐさいんだよな」
「あそこ?」
「いや」
 首を振って、さらにひねりながら、
「なんていうかさ、違うんだよ。
なんか血くさいっていうか、なんだろなあ。
嫁さんの存在自体がなまぐさいって言うかさあ。
エロスを感じるとか、そんなんじゃない気がするんだよ。
……って言ったら口きいてくれなくなった」
「はははは」
「女として魅力がなくなったのかって怒るけど、
そう言ってるんじゃないんだ。
女性としてもすばらしいひとだと思うよ。
でも、そんなんじゃない。もっと、大切にしたいっていうか、
守りたいっていうか……。なにかなあ。わかんないかなあ」
「ははは、わかるわかる」
「ほんとか!」
 ぎらっと目を光らせて、おれに身を乗り出してきた。
「なんなんだよ。なんて言えばわからせられるんだ?」
「お前も言ってたけど、きっとエロスの問題だ」
 おれは言う。
「エロスがストルゲーになったんだろ」