アパートのチャイムが鳴ったのは、真夜中過ぎ、
新しい日が始まるころだった。
こんな時間に誰だろう? びくびくと扉に近づき、声を出す。
「……はい?」
「ども、こんばんは」
返ってきたのは、ありえない声。
「どっ、どうしたの!?」
慌てて鍵を外し、扉を開けると、
「いやあ、来ちゃったよ」
会いたかった彼がそこにいた。
「来ちゃったって……そんな気楽な距離じゃないでしょ」
「まあ、遠くで心配してるより、こっちのほうが気が楽だし」
「ばか……」
ぼろぼろと落ちてくる涙。
「知ってる」
彼はわたしの肩に手を置いて家の中へと導き。
わたしは彼の胸に頭をつけ、わけのわからない想いにただ泣いた。
あたたかなにおい。頭に触れる大きな手。
ひとしきり泣きとおすと、
「すっきりした?」
「うん」
わたしは答える。
「そう、よかった」
ぼやける姿で笑顔をこぼし、彼はハンカチをさしだした。
「ほら、メガネを拭きな」