0767
2006-08-17
強化因
 中学生の息子を連れて再婚した。
 はじめはうまく行きそうだったが、すぐに問題が起こった。
 息子が部屋の片付けもしなくなり、
そこで妻が口走ってしまった食事抜き、という言葉を受けて
何も食べなくなってしまったらしい。
 まあ、なにごとも最初はもめるものだ。
 おれは帰宅すると、息子と向き合って訊ねる。

「なあ、どうしておかあさんを困らせるんだよ。
昔は言われなくたって部屋くらい片付けてたろ?」
「別に……困らせてるわけじゃないよ」
 気まずそうに目を泳がせる息子。
「食事だってしてないんだろ?」
「いや、食べてるよ。買って」
 すこしほっとする。
「でも、小遣いだってそんなに続くわけじゃない。
おかあさんだって新しい生活に慣れなくて、
うっかり言っただけなんだ。何があったか知らないけど、
意地張らずにまた一緒に食べてくれよ」
 するとおれの目を見つめ、
「ほんとに知らない? なにもわからない?」
 真剣な声で訊いた。
「そりゃ、前のおかあさんとは違う。死んでないのに再婚して、
割り切れないものがあるんだってのはわかる。
精一杯の反抗かもしれないけど、
あの人だって一生懸命やってるんだよ」
「ちがう、そんなんじゃない」
 息子は首を振る。
「え?」
 聞き返すと、つぶやいた。
「部屋を散らかしてれば、アレを食べなくていいんでしょ」