おふとんの中のおじいさんは、とても穏やかなお顔だった。
長い間入院していたために
周りの人との関係は薄くなっていたけれど、
かつてのおじいさんを知る人がたが集まっていた。
見たこともない人たち。知らなかったおじいさんのことが
その口から語られる。
生まれから苦労も多く、若いうちから家の手伝い。
兄弟や家計を助けながら生活し、勤めては人にだまされ
全てを失い、這い上がってはもらい火で家まで失い、
自分の家を建てれば騙し取られて、こどもを生めば逝去して。
苦労の中で生まれ、しあわせをつかみかけると
まるで狙いすまされたように奪われていく人生だった。
わたしの知るころのおじいさんは
ゆったりとすごしていたけれど、
その中でも心無い人とのいさかいに心を痛めていたと聞くと、
こころをすりつぶされるような思いがした。
でも。
おふとんの中のおじいさんは、とても穏やかなお顔で。
もしかしたら、おじいさんの今生は苦難を乗り越えて
あきらめずに生きることを学ぶ人生だったのかもしれない。
もしそうだとしても、おじいさんはそれを立派にやり遂げ、
ようやく安らかな眠りについたんだ。
――おつかれさま。
仕事の終わりに軽々しく口にしてきたけれど、
わたしははじめて心の底からその言葉を思った。