アルバイトに行ったまま
いつもの時間になっても戻らない息子を待ち続けていると、
近所の奥さんから電話があった。
息子が戻ったかと訊くのでまだだと答えると、
息子らしき人物が車で連れ去られるのを見たのだと言う。
そこでお願いして二人で一緒に警察に行った。
「息子が誘拐されたらしいんです。
一刻も早く見つけてください!」
わたしが懇願すると、
「うーん、むずかしいですね」
その公務員は言った。
「なぜですか」
「だって、いつもの時間に帰らないだけで、
息子さんが寄り道してるだけかもしれないでしょう?」
すると一緒に来てもらった奥さんが横に来て、
「わたしは見たんです。息子さんはたちの悪そうな男たちに
囲まれていました」
「ああ」
警官はうなづき、
「それはきっと息子さんの友達ですよ」
「でも、その人たちは息子さんに大きなナイフをちらつかせて
言うことを聞かせようとしてたみたいでした」
「きっとサバイバルゲームにでも行くんでしょう」
奥さんは眉を寄せて訴える。
「そのあと、手錠をかけて頭に袋までかぶせたんですよ?」
「ははは、捕虜の連行でもしてるつもりなんでしょうね」
「その状態で男たちは蹴りこんで、後ろの座席に入れたんです」
「ずいぶん雰囲気出してますねえ」
その対応にわたしは叫んだ。
「冗談はやめて、すぐに捜索してください!」
すると、
「むりですよ、奥さん」
「どうして!」
その公務員はあきれた顔で、
「警察はね、事件性がないと人手も費用もかけられないんですよ」