有名人が女の子を出産!
そんな記事が新聞にいいだけ載っていた。
帝王切開が必要な、大変なものだったらしいが……。
「なんだ、浮かない顔して」
休み時間にそんな話題で盛り上がる同僚の横、
考えてたら訊かれた。
「いや、ほんとに女の子を出産したのかと思ってさ」
おれの言葉にあきれたような軽い笑い。
「じゃあ、なんだ。事実を捏造したって?」
「いや、違うよ。出産ってのは、
『産み出す』か『産まれ出る』かのことだろ?」
「まあ、そうだな」
「てことは、帝王切開をしたんだから
母親は女の子を『産み出』したわけじゃないよな?
あかんぼう自体も『産まれ出』たわけじゃない。
あかんぼうを産まれさせたのは医者で……。
だから、母親が女の子を出産したって言い方は変だよな?」
すると冷たい目。
「そんなもんどうだっていいだろ。お前のほうが変だ」
確かにそうかもしれない。
誰が生まれようが誰が死のうが、
親しい人でなければどうでもいい。
おれの何に影響があるわけでもないんだから。
でも、それはお前たちもそうなんじゃないか?
なんで用意された話題にそこまで浮かれられるかが
おれにはわからない。
――そう言おうとして、口を閉じた。