0005
2003-07-15
選挙
 学校からの帰り道。
本を読みながら歩くぼくの前を
いくつかの影が横切った。

「……?」

 顔をあげると、そこには へらへらと
嫌な笑みを浮かべるクラスの奴らが
ぼくを囲むように立っていた。

「よお、メガネ」
 真ん中の、一番嫌な奴が声をかける。
「これからお前を殴る。どこを殴られたいか言え」
 ぎくっとして、あとずさった。
でも逃げきれないのはわかってる。

 ぼくはなけなしの勇気を振り絞って口にした。
「ぼ……ぼくがなにしたって言うのさ」
「おまえがどうしたなんて関係ない。
おれたちが殴るって決めたんだ」
 楽しそうに目をほそめ、口の端でにいっと笑う。
……きっと本気だ。
「ほら。どこ殴られたいか言えよ」
 なんでぼくが……。
泣きそうになりながらも必死に考える。
 殴られてもあまり痛くない場所。
おしり? あたま? 手のひら? 
……そして、ひらめいた。
「……足のうら」

 ゴン! 頭に衝撃。
「い……ってぇ!」
 ぼくが頭をかきむしると、
周りの奴らはげらげら笑った。
「なにすんだよ!」
 叫んだぼくに、
「悪い悪い。ちょっと手が滑った」
 鼻にかかったような声。
「うそだ! 最初っからそうするつもりだったんだろ」
 さすがにむっとして叫ぶと、
さらに楽しそうに にんまり笑って、
「さあ、どうかな」

 その言葉が悔しくて、ぼくは食って掛かった。
「じゃあ、なんでぼくに訊いたんだよ!」
「だまれクソ虫。おまえの意見も
聞くところは見せてやっただろ?」
 激しい屈辱。ぼくは叫ぶ。
「おまえ、何様のつもりだ!?」
 するとあいつはさげすむような
いやらしい笑みを浮かべて言ったのだ。

「おれか? ……民意の代表さ」