0038
2005-11-02
 その子はいつごろからか、
不思議な力を持つようになった。
 目の見えない者の目を開かせ、
美しくなりたいと思う者を
見目良くさせることもした。
出歩いては奇跡を起こすその少女の名は広まり、
近隣でも評判になっていった。

 そのうち、それまで知らなかった
彼女の両親の耳にも入るところとなり、
親たちは意地悪い目で
彼女を値踏みするように呼び止めた。

「おまえ、家にいるときは
なんの役にも立たなかったけど、
今じゃ奇跡を起こせるんだって?」
 彼女の母親が言った。
「そんな力が本当にあるのなら、
わたしたちに見せてみろ」
 父親が言った。

 すると彼女は悲しげな目で二人を見つめ……
地面に膝をつき、こうべを垂れて言った。
「ごめんなさい。
わたしは言われるようなことなど
何もできないごくつぶしです。
いつもご期待に添えなかったこと、
お許しください」

 その言葉に彼女の両親は
見下すような笑みを浮かべながら、
満足そうに立ち去った。
 その夫婦の子はいつごろからか、
不思議な力を持つようになっていた。
 目の見えない者の目を開かせ、
美しくなりたいと思う者を見目良くさせることもした。

 ――彼女の奇跡は、
相手が心の底から望むことをかなえるものだったから。