0057
2006-01-14
胡麻の油と百姓は
 厳しい不況の折、ようやく見つかった
再就職先の指示で、銀行に口座を作りに行った。
 三時間ほど待たされた後、
いやらしい作り笑いを浮かべる女と向かい合い、
ようやく手続きが始まる。

「それでは」
 と女は言った。

「新規ご開設ということで、
まずはお客様のご口座開設手続き費用と、
新規口座に振り込まれます金額といたしまして、
一万円以上から承りますが、いかがいたしましょうか?」
「では一万円で」
「はい、かしこまりました」
 金が消え、領収書を渡される。

「つきましては、こちらご口座ですが、
一日の最大引き落とし限度額は五万円となっております」
「五万円? じゃあ、十万円下ろすときはどうすれば?」
「二日にわけて、五万円ずつお出しいただきます」
「手数料はいくらなんですか?」
「こちら、平日の十時から十一時までと、
十三時から十六時まで、
手段に関わらず引き出し手数料はかかりません。
それ以外ですと一律千円かかります」

「普通のサラリーマンにはおろせない時間ですね。
一気におろす手段はないんですか?」
「そう言われますお客様のために、
オプションとして限度額を引き上げるサービスがございます。
こちら、限度額は一日五十万円、
加えてカードの盗難・不正引き出しの保障がありまして、
その保障費用といたしましては、
年間四十八万九千円を頂きます。
申し込み日の前後あわせて一か月の間に
解約されなければ自動更新となりまして、
その次の月の二十五日にお客様の口座より
同額引き落としさせていただきます」

「ええ? そんなにかかるんですか? なら、結構です」
「さようでございますか」
 断るといかにも残念そうという顔をし、続けた。

「それでは一般的な口座の開設、
ということで手続きいたします。
まずはご本人様確認用の高性能防犯装置つき
通帳・キャッシュカードの費用といたしまして、
二十五万円。お客様の網膜認証の際に
乱数暗号化処理をいたしますフィルムが十万円、
ご本人様のDNA登録用のサンプル採取費用が二万円、
データ化費用として三万五千円。
合計四十万五千円いただきます」
「四十五万!?」
 思わず叫ぶ。
「口座を作るのはやめます」
 するとその行員は。
「残念です。ではすでに手続きに入っておりますので、
解約費用として一律の九万一千円いただきます」