「すまないが」とその男は言った。
「これからは警備は二人でやってもらいたい」
なんだって!? わたしは思わず叫んだ。
「どういうことですか? それでは安全が確保できません」
すると、軽くため息をつき、
「銀行もこの不況で、
出費はなるべく減らさなければならんのだよ」
「だからって、そんな……。
二人だけだと片方になにかあったとき、
残りの一人がお金を持って逃げられる状況が
できてしまいますよ」
驚いた顔をして眉を寄せる男。
「なんだ、君のところはそんな人間を雇っているのかね」
「いいえ、もしもの話です。
では、たとえば社員の一人が家族を人質にとられ、
お金を盗むように言われたとして。
四人ならばはじめから無理だと言って
あきらめるかもしれませんが、
二人なら一人になる時間を利用して
どうにかできると思ってしまうかも知れません」
「なに!?」
声を上げる。
ようやくわかったかと思うと、
「そんな話があるのか?」
「ありませんよ。たとえです。
二人で警備にあたるとしたらひとりが急病で命の危険があるとき、
どう介抱するのですか? せめて三人……」
「大切な職務なのに病気持ちを雇っているのか?」
なにを言っているんだ、この男は。
「あくまでたとえです。安全を考えるなら、
何かが起こりうる状況はあらかじめ予測して回避するべきです」
「それはわかるがね。今どき何も起こらないし、
何か起こったって保険が利くんだよ」
さすがにうんざりして、つい口が滑った。
「あんたの頭は羽飾りか?」