0056
2006-01-13
羽飾り
「すまないが」とその男は言った。
「これからは警備は二人でやってもらいたい」
 なんだって!? わたしは思わず叫んだ。

「どういうことですか? それでは安全が確保できません」
 すると、軽くため息をつき、
「銀行もこの不況で、
出費はなるべく減らさなければならんのだよ」
「だからって、そんな……。
二人だけだと片方になにかあったとき、
残りの一人がお金を持って逃げられる状況が
できてしまいますよ」

 驚いた顔をして眉を寄せる男。
「なんだ、君のところはそんな人間を雇っているのかね」
「いいえ、もしもの話です。
では、たとえば社員の一人が家族を人質にとられ、
お金を盗むように言われたとして。
四人ならばはじめから無理だと言って
あきらめるかもしれませんが、
二人なら一人になる時間を利用して
どうにかできると思ってしまうかも知れません」
「なに!?」
 声を上げる。

 ようやくわかったかと思うと、
「そんな話があるのか?」
「ありませんよ。たとえです。
二人で警備にあたるとしたらひとりが急病で命の危険があるとき、
どう介抱するのですか? せめて三人……」
「大切な職務なのに病気持ちを雇っているのか?」
 なにを言っているんだ、この男は。

「あくまでたとえです。安全を考えるなら、
何かが起こりうる状況はあらかじめ予測して回避するべきです」
「それはわかるがね。今どき何も起こらないし、
何か起こったって保険が利くんだよ」
 さすがにうんざりして、つい口が滑った。
「あんたの頭は羽飾りか?」