「ねえ、お父さん、見ないの? 優勝決まったよ〜」
歓声があがるテレビの前でお父さんに声をかける。
返ってくるのはいつも同じ。
「ふん、なにが仏ボールだ。くだらない。
あんなのほくろがあるだけのやつらのお遊びじゃないか」
すねたように言うのがちょっとかわいい。
「遊びじゃないよ。あんなになるのに
いっぱい努力してるんだよ」
「努力するのなんてあたりまえだ。
それよりも、結果が出せるなら努力なんてしなくたっていい。
最後の一線を分けるのは運だ、運。
運さえあれば、おれだって今
テレビに映ってたかもしれないんだぞ」
うそぶくお父さん。
「はーいはい。そしたらわたしは有名人の娘。
お手伝いさんでも雇って、
晩ごはんの用意なんてしなくてよくなってたかもね」
適当な食後の会話の向こう、
テレビの中では今日のMVPがインタビューを受けていた。
アップになる、眉間の大きなほくろ。
『いまのお気持ちは?』訊ねる人に、「うれしいです」。
『球団一の努力家と評判ですよね』。と言われると、
「努力なんてだれだってします。
それが結果になったのは、運がよかっただけです」
『またまた、謙虚ですね』
「……って、口癖のように言っていた
先輩の受け売りですけどね。
でも、自分は努力も才能もあの人には適いません。
朝から晩まで努力して実力もあった秀才肌。
ただ、事故でほくろをなくした――」
ぶつん。
真ん中に光の点を残してテレビが消える。
「えっ?」
気づいて、見ると。
お父さんは背中を向けて、
新聞に目を落とすように座っていた。