0061
2006-01-18
弁別閾
「わあ、できたね、すごい、すごい」
 居間で母親が声を上げる。
「ほら〜、きれいだよ、すごいね」
 横にいる男の子の前にあるベニヤ板には、
ようやっとで糊付けされた色とりどりの葉。

 それを見ていた男の子の弟は、
ランドセルを開けると一枚の画用紙を取り出して
母親の前に広げた。
「ぼくも描けたよ、どう?」
 すると母親は、
「もっとうまくかけるんじゃないの?」

          *

「わあ、できたね、すごい、すごい」
 食卓で母親が声を上げる。
「今日はいつもよりお箸じょうずみたい」
 横にいる男の子はぎこちないながらも
握るようにした箸で食べ物を運んでいた。

 それを見ていた男の子の弟は、
手にした箸で食べ物をつかみ、母親の前に出した。
「ぼくも上手にもてるようになったよ、どう?」
 すると母親は、
「それくらいできてあたりまえでしょ」