「ただいま……」
真夜中、つかれきった声で夫が帰ってきた。
「おかえり。なにか食べる?」
「いいよ、食べてきた」
ネクタイの間に指を入れ、緩めながら。
「なに食べたの?」
訊ねると、テレビをつけた。
そこには電車を持ち上げる大型車。今日の一番のニュース。
「大変だね、きっとすごいお金がかかるんだよ」
「そんなもん、どうでもねえさ。
かかったらかかった分、飛び込んだやつからとるんだろ。
……ああ、くそ!」
はずしたネクタイを投げつける夫。
「あんなとこで死んでんじゃねえよ、クソが!」
「死んだ人を悪く言うもんじゃないよ。
きっといろいろあったんだよ」
わたしが言うと、ソファに投げやりに腰を落とし、
深いため息をつく。
「会社……つぶれた」
「えっ?」
「もともと自転車操業だ。今日いけなくて、取引が流れたんだ」
「そんな……」
夫の肩が小刻みに震える。
「あははは。ずいぶん割り食った。もう腹いっぱいだ」