0104
2006-02-02
たべたもの
「ただいま……」
 真夜中、つかれきった声で夫が帰ってきた。
「おかえり。なにか食べる?」
「いいよ、食べてきた」
 ネクタイの間に指を入れ、緩めながら。
「なに食べたの?」
 訊ねると、テレビをつけた。
 そこには電車を持ち上げる大型車。今日の一番のニュース。

「大変だね、きっとすごいお金がかかるんだよ」
「そんなもん、どうでもねえさ。
かかったらかかった分、飛び込んだやつからとるんだろ。
……ああ、くそ!」
 はずしたネクタイを投げつける夫。
「あんなとこで死んでんじゃねえよ、クソが!」
「死んだ人を悪く言うもんじゃないよ。
きっといろいろあったんだよ」

 わたしが言うと、ソファに投げやりに腰を落とし、
深いため息をつく。
「会社……つぶれた」
「えっ?」
「もともと自転車操業だ。今日いけなくて、取引が流れたんだ」
「そんな……」
 夫の肩が小刻みに震える。
「あははは。ずいぶん割り食った。もう腹いっぱいだ」