下校時間。おれたちはそそくさと玄関を抜けた。
「まったく、くだらねえよな。
チョコレートなんてあんな甘ったるいもん
なにがありがたいかわかんねえ。
遭難したらあれだけで何日も生きられるんだろ。
相手にやって糖尿病にでもするつもりか?
嫌がらせだよ、嫌がらせ」
「お礼に三倍返しとかわけわかんねえ。
なくならねえかな、バレンタインなんて」
校門のそばまで行くと、隣の友達を呼ぶ声。
振り向くとクラスの女子が走って来ていた。
「ちょっとー、今までどこ行ってたのよ」
その質問に目をそらし、
「いろいろあんだよ」
周りの奴を見るのが嫌で、
休み時間のたびに二人で隠れてたのは秘密だ。
「もー。さっさと帰ろうとしないでよ」
「な、なんだよ」
腕を引っ張られて連れて行かれるあいつ。
さっさと帰ることばかりを気にして、
委員会でも忘れてたんだろう。
けれど、校舎に行くかと思っていた二人は
プール横の茂みの方へ行き、すぐに振り向いて戻ってきた。
「ああ、ごめん」
「なんだったんだよ」
たずねると、微妙に幸せそうな顔で。
「ん……まあ。おれに言えるのは、
バレンタインもそう悪くはないってことだ」