毎日のメシにも飽きて、なにかないかと見歩いていたとき、
興味深い品書きを見つけた。
『オーナーの気まぐれ弁当』
どんなものかときまぐれで買ってみたが、
どうにも普通の弁当だった。
もしかするとたまたま今日だけ
気まぐれで普通のものが出てきたのかと思い、買い続けて五日。
月曜になってまた買うと、先週と同じ内容だった。
「おい、どうなってるんだ」
さすがにたまらず弁当屋に飛び込んで文句を言うと、
売り子の姉ちゃんは切なそうな目でおれを見た。
「本当の気まぐれ弁当は他にあります。
売るように言われてるのですが、
本当にきまぐれなのでいつも置き換えて、
あとでわたしたちで食べてるんですよ」
本当の気まぐれ弁当! いったいどんなものなんだ。
「ぜひ! ぜひそれを売ってくれ」
頼み込むと、悲しげな顔をしてただでくれた。
さっきひとつ食べたばかりだが、
これを食べないわけにもいくまい。
さっそくふたを開けると色鮮やかな野菜や魚。
ひとつ選んで口にする。
「うん」
まずい。にんじんなんて皮もところどころ残ってるし、
生煮えでごりごりする。
鮭だろうか、生赤い魚の肉片らしきものは火も通っておらず、
微妙に生臭い。
ああ、これが本当の気まぐれ弁当か。
……というか、こんな料理を途中で投げ出したようなものばかり
作りやがるなんて、どんな気まぐれ野郎だ、あそこの店主は。
「看板に偽りなし、か」
おれはできそこないの弁当とともに
『普通』の良さを噛み締め……
二度とあの店には行かないことを誓った。