0141
2006-02-14
抱き合わせ
「さあ、追い詰めたぞ」
 剣を構える男たちの中、
手ぶらの若い王子が言った。
 その向かいには主君をかばうように立ちふさがる男と、
弱々しく頭を抱えてうずくまる、若いと言うよりは幼い王。

「果たしてそうかな? 
この身を捨ててあなたを殺すくらいたやすいこと」
 両手で剣を構えなおす男に、若い王子は言った。
「お前ほどの男なら、この状況がわからないでもあるまい? 
わたしを殺せばこの者たちがお前を殺し、
その間抜けな王は切り刻んで殺す」
「くっ」
 片手を剣から離し、後ろの王をかばうように手を伸ばす。

「なぜそこまでこだわる? 
その男、それほど値があるとは思えんが」
「父の命をお救いくださった先代への恩義。
それを裏切るわけにはいかん」
 王子は楽しげに口元をゆがませ、言った。
「ますます気に入った。おまえはわたしの元に来い!」
「な、なにを……」
「自分でわかっているはずだ、おまえがどこにいるべきか。
わたしとともにあるならば、王の命は約束しよう。
おまえは自分の身を捨てて、王を救うのだ!」
 謳うように差し出した手。懐から何かが落ちた。

 床に落ちたのは、豪華なおまけに
貧相なチョコレートのついたお菓子の箱。
 王子はそれを拾うと懐に戻し、
軽く咳払いをして改めて手を開いた。
「さあ、来い! おまえも王も、わたしが守ってやる!」