中年男二人のスキー帰り、
腹が減ったので目に付いた店に入ってみた。
壁は白塗り、教会のような洒落た感じで、
味に期待しながらメニューをめくった。
『夏の海で恋に落ちた白い羊のスパゲティ』
『見詰め合う恋人たちの甘いクリームパスタ』
『情熱におぼれる水面のの月グラタン』……。
思わず顔を見合わせるところへ、
「こんにちは。ご注文はおきまりですか?」
にこにこと笑顔を振りまくウェイトレス。
「え、ええと。じゃあおれは……この……
夏の海で……恋……に落ちた……白い羊のスパゲティとやらを」
おれはなんでこんな事を言わされてるんだろうか。
「そちらさまは?」
訊かれて友人がぎこちない手でメニューをさす。
「えと、これを」
その先には『懐かしい故郷に想いを馳せる、
麗しの婦人の御髪』の文字。
……くそう、うまいことやりやがって。
「では、確認いたします。こちら、白い羊のスパゲティおひとつと、
婦人の御髪おひとつですね」
なにぃ!?
思わず叫びそうになった言葉を飲み込んで、うなづく。
すると彼女は厨房に行き、よく通る声を響かせた。
「オーダー入りました〜。白スパと婦人、各一です!」