0171
2006-02-22
こども同士
 例年にないほどの どか雪が降り、
村では休む時間がないほどの雪下ろしに追われた。
 村にいるのはジジババだらけ。
すこしでも力がある者は
雪かきすらできない家へ回ってみんなでかきおろした。
 雪で手足は冷え、体は雪かきで暑く、
その熱すらも雪の風に冷やされて。
寝不足と疲れから半ば朦朧となりながら
ただ体だけを動かしていたときだった。
「おーい」
「おーい」
「おーいってばよう」
 下から聞こえてきた音が声になる。
「ああ〜?」
 ようやく首だけを動かして後ろを見ると、
隣のばあさんがおれを呼んでいた。

「終わったら行ってやるから、ちょっと待っとけ〜」
 雪にスコップを入れると、
「違う〜。なんか国のお偉いさんが来てるんだと」
「だれ?」
「知らん〜」
「知らん奴のことなんざ、知らん」
 ばかになってきている腕に力をいれ、屋根からそぎおとす。
「だめだ〜。とにかくみんなで集まって
もてなせってことだあ」
「なんだとぅ」

 しかたなく呼ばれた場所に行くと、
見たこともないような車が何台も止まっていて、
テレビカメラだのなんだのをもった連中が
野グソに群がるハエのように不愉快な音を立てていた。
 雪の吹きつける中、三十分ほど待ってようやく、
立派な車の中から偉そうな男が出てくる。
 男は外に出ると、真っ白な息を吐き出した。

「え、あれだな。
人をこんなところに待たせっぱなしにするなんて、
どれだけ偉いんだあの男は」
 おれが言うと、前にいたじいさんが振り返り、
「おい、まずいって。
うまくいけば金が出たり手伝いがきたりするんだぞ」
「金だぁ? もともとおれたちが
払ったもんじゃないか。あいつの金じゃないだろう」

 男は歩き出し、あたりを見回す。
「すごい雪ですね、大変だ」
「なにが大変か。冷やかしでわかった気になるなや」
 こんな茶番に付き合うくらいなら、
さっさと戻って雪かきして休みたいんだ。
「見てる暇があるなら、一晩中とは言わん。
一屋根でも、せめて雪の一かきでもしてみればいい」
「大変なようですね」
 わざとらしい声がそばに聞こえたと思ったら、
その男が目の前に来た。
 ぎらりと目を光らし、低い声で言う。

「じいさん、さっきからなんなんだ。
わたしの金じゃなくても、
出すかどうかを決めるのはわたしだ。
それとも支援はいらないか?」
 それを聞いておれは言う。
「いるに決まってるだろう」