0174
2006-02-23
その芽を摘む者
 中学生の女の子が殺されるという事件が起こった。
写真を見る限りすれてもいない、
かわいい感じの娘さんだった。

 インタビューされている、
どこまで本当かわからない他人の話しだと、
その子は毎朝会えば自分から挨拶し、
話せば知性の片鱗ものぞかせる、
快活ですてきな女の子だったらしい。

 ……ばかめ! いまどき
そんな子がどれだけいると思ってるんだ。
 どうせ殺すなら電車の中で
床に座って化粧するだのバカ話するだの、
声をかけても侮辱で返すような、
下品で下劣なやつらにすればよかったろう。

 その一か月後、犯人が捕まったという話が
大々的に放送された。
日を追うごとに明らかになっていく動機。

 曰く、女の子は犯人と顔見知りで、
毎朝会えばにこやかに挨拶をして、
さっぱりと制服を着こなし、
いつも笑顔を見せるような
かわいい子だったらしい。
 だからこそ一方的に欲望をつのらせ、
押し付けようとしたのを拒まれたことで殺したのだという。

 ……この外道め!
「どうしたの、おとうさん、難しい顔しちゃって」
 振り向くと、娘がにこにことわたしを見ていた。
 親のひいき目をのぞいたとしても
かわいく生まれたものだと思う。
挨拶もするし、気持ちよくお礼もする。
勉強だって一生懸命な、自慢の娘だ。
 だからこそ、わたしは涙を飲んで口にする。
「いいかい、これからは近所の人と会っても
一切挨拶せずに無視するんだ。
髪は色を染めても抜いてもいいからばさばさにして、
制服はだらしなく着る。
そして常に頭の悪いしゃべり方をすること。いいね」