0198
2006-03-01
大切なのは
『大切なのはあなたのやる気です! 
熱意ある方お待ちしています!』
 と。会社がそんな求人広告を出し、
課長とおれとで応募者の面接をやることになった。

「失礼します」
 一人目は落ち着いた物腰の、まだ若い男だった。
履歴書によると、同種の仕事経験者。
これははじめから期待できるかもしれない。
「それで、あなたは当社にとって、何ができると思いますか?」
 話の中で核心を問うと、男はすこし考え、口を開いた。
「さあ、わかりません」
 だが投げやりでなく、思慮深く言葉を選んで話しだす。
「同じ名前のついた仕事でも、
やる事は会社によってまったく違うと思うのです。
ですから御社でどんなことをやるのかは
一切わかりませんし、わたしがそれを言うことも
できないでしょう。
一月まるまる残業や休日出勤というような
非人道的な環境でなければ、
わたしは自分のできることをやるつもりです」
 ああ、この男はやるのかもしれない。

 面接が終わり男が出て行ったあと、
課長にすすめようとすると
「あいつはだめだな」
 課長がいった。
「ええ? なぜです?」
「やる気が感じられない。
なにができるかと訊いてわからないとか、
残業がいやだとか。あんなのはいらないよ」
 決定におれが口を出せるわけもなく。
しかたなく次の人を呼んだ。

 入ってきたのは、がっちりした感じの若い男だ。
「こんにちは」
 男は言った。質問すると
こちらが気圧されるくらいの勢いで答えてくる。
「それで、あなたは当社にとって、何ができると思いますか?」
 大事な部分を訊ねると、
「なんでもやります!」
 男は身を乗り出した。
「自分は根性なら他人に負けない自信はありますし、
できないならなんでもやって、
すこしでも早くできるようになるつもりです!」
 ほう……。おれはこういう人間は苦手だが、
課長のめがねにはかなうんじゃないか?

 男が出ていくと、
「あれはだめだな」
 課長が言った。
「え? なぜです?」
「ほら、履歴書。ろくな大学出てないぞ、あいつぁ」
 おれは言葉を失って、そのまま座っていた。

 すると次に入ってきたのは、扇情的な格好の女。
「失礼します」
 スーツこそ着ているものの、
胸を突き出しくびれた腰でくねくねと歩く姿を見ていると、
自分がどこかの水商売の面接官にでもなった気がする。
「どうぞ」
 いすにかけるようすすめると、
ワイシャツのボタンをだらしなく開けたまま上体をかがめた。
胸はこぼれおちるように谷間をのぞかせる。
むちむちと短いスカートからはみ出した足は、
その中心に白い下着を見せながら存在を誇っていた。
 顔をあげればその笑みはいやらしく、
どこかしら曲がった自信が浮かんでいるようだった。

 この女はなにしに来たんだ?
 とりあえずの面接が終わったあと
さっさと次に行くように求めようとすると、
課長は中年の笑みをうかべながらうなづき、
「うん、いまの子はいいな」
 その瞬間、胸の奥からなにかが吹き出してきて、
おれは叫んだ。
「大事なのは『やる気』でしょう! 
あんたの『雇う気』じゃない!」