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2006-03-02
続けること・やめること
 いつごろからか、気になりだした人がいる。
見るたびいつでも公園から海の方をみているおばあさん。
 だれかを待っているようであり、
ただ考えているだけのようでもあり。

 ある日、わたしはどうしても気になって、
声をかけてしまった。
 すると軽く驚いた顔で振り向いたその人は、
薄く笑みを浮かべて
「ねえ、太陽ってどうして一日も休むことなく
昇ってくると思う?」
 静かに訊ねた。思わず見つめるその目は
冗談を言ってはいなく、
その奥になにか真実を含んでいるように見えた。

「昔の人は、また日が昇るようにと願って、
いけにえをささげることもあった。
今ならそんなことは非科学的だって言われて
終わっちゃうけど。でも……もし、それが非科学的でも、
真実だとしたら?」
「え?」
「太陽が昇るのは、かつての人のいけにえと
尊敬がもたらした恩恵。いけにえも捧げなくなって、
敬いもしなくなった太陽は
ある日ぷっつり姿をあらわさなくなるかもしれない」

 そしてふと遠くに目をやると、
「それよりも……」
 ぽつりとそのひとは言う。
「ほんとは、いつからかわかってたんじゃないかな。
いけにえは無意味だって。
わかっているけど、やめられない。
もしかしたら、そこに真実が含まれているかもしれないから。
もしやめて……太陽が昇らなくなったら、どうすればいい? 
やりなおしはきかないのよ。
それに、さらには怖さがあった。
いけにえが無意味だとしたら、
今まで死んだ人は、殺してしまった人は、
うしなった大切な人は何のために死んだの? 
それまでのことはいったいなんだった? 
……だから、やめられない」
 わたしに振り向くと、そっと笑った。

「結局、怖いのね。『今』を見つめることが。
そして、未知へと踏み込むことが……」
 それはすこし、わかる気がした。
「ねえ、わたしは、だれかを待っているんだと思う? 
それとも待っている振りをするために待っているんだと思う?」
 寂しい顔をして、おばあさんはわたしに訊いた。