0205
2006-03-02
曲がって育つ
今度催される学芸会の劇を何にするか、
先生たちが集まって話し合いをした。

 わたしたちの一年生は……
「大きなやさいの話なんてどうですか?」
 わたしは言う。
 畑に野菜を植えたおじいさんが大きく育つように祈っていると、
ぐんぐん大きくなる野菜。
それをみんなが力を合わせて抜く、
というテンポもよくて楽しいお話。

 でも、

「とんでもない!」
 代々この学校で育ってきた学年主任が叫んだ。
「うちの学校はどんなこどもがいるか知っているだろう?」
「ええ、政治家のこどもさんたちですよね」
「なら、わかるだろう」
 ため息をつきながら首を振り、
「市民が育てて大きくなった野菜、
つまり政府を、老いも若きも動物もすべてが力を合わせて
転覆させようとする話だぞ? 
しかも最後は げっ歯類のしっぽごときで倒されるなんて、
劇でやった日にはどうなることか……!」

 わたしはしばらくぽかんと口を開けていたが、
はっと気を取り直して口を開く。
「では、もも少年はどうです?」
 桃から生まれた少年が、悪い鬼を退治するお話。
 これならだれもが知っているし、
動物を家来にするんだから政治家だって大喜びするだろう。
「だめだ、だめだ」
 学年主任はあきれたように首を振る。
「桃から生まれるなんて分けのわからない生まれ方をしたのが、
市民から物品を税金で徴収する政府を鬼とみなして、
くだらない畜生のような人間を買収して革命を起こすような話、
やったらどうなるかくらいわかるだろう?」
「どうなるかはわかりませんが」
 吐きそうになりながらわたしはなんとか口にする。
「お望みのようにしていたら、
主任のような人間が育つとわかりました」