「あ、きみは……」
夕暮れの街、一人の中年男性が立ち止まり、声を出す。
目の前にはすれ違い歩き去る中年女性。
「待って!」
振り返り手をつかむと、女性は体を硬くして、
跳ねるように振り向いた。
「やっぱり」
男性が笑うと、
「あ、あ……!」
すこし間が空き、女性も笑う。
「ずいぶん手、荒れてるなあ」
彼が言うと彼女はそっと手を隠し、
「しかたないよ。水仕事してるとどうしてもね。
……あなたの手はずっとそのままみたい」
薄く笑った。
「今、幸せかい?」
男が訊ねると、彼女は軽くあっけにとられた顔をしてから、
「ま、大部分はね」
あきらめたようなため息と共に、
母親のような強い笑みに顔を崩した。