春。道の両側に桜の花が咲く車道。
わたしたちはぶらぶらと歩きながら、
もっと近くに見たくて歩道橋に登った。
うすく頬を染めるように色づく花は、
可憐さとはかなさを浮かべながら楚々と咲いている。
「ああ、やっぱり桜だねえ」
たった一週間の春の盛りを愛でていると、
目に付く無粋な黒い電線。
うっかり手を伸ばしたら触れてしまいそうなほど近くにあって、
すこし危険なにおいがした。
「これって触ったら、やっぱりびりびりくるのかな?」
訊くと、友達は驚いた顔をしておそるおそる手を伸ばし……。
桜の花に、触れた。
思わず口に出た言葉。
「いや、ねえ、ちょっと。どう考えても――」