0213
2006-03-06
怖いもの
 ――ピンポーン。

 呼び鈴の音がして、わたしは跳ねるように玄関に向かった。
 のぞき穴から外を見て、それからチェーンのかかった扉を開く。
「ね、ねえ、だれか、いた?」
 後ろから青い顔で そっと呼びかける友達。
「ううん。だれも」
 振り向いた瞬間、

 ――ピンポーン。
 目の前にあるチャイムが、鳴った。
「いやぁああああ!」
 友達が叫ぶ。
「やっぱり……。何かいるよ、絶対」
「幽霊とか?」
「いやああああ!」
 耳をふさいで頭を振る。
 見てる前で、何もないのに
いきなりチャイムが鳴ったのにはわたしも驚いたけど、
ちょっと考えれば話は簡単。
「ね、これただチャイム壊れてるだけじゃないの?」
 ぐいぐいとボタンを押すと、ピンポンピンポンと音が返る。
「……え?」

 それから連絡をして、しばらくののち、修理屋さんが来た。
 修理後の報告を聞きに行っていた友達が戻ってきたとき、
その顔は憑き物がとれたようにさわやかだった。
「ほら、やっぱり故障でしょ?」
 わたしが言うと、
「ううん。中におっきなクモが入ってたんだって」
 中にクモ……? わたしが押した、ボタンの下に?
「それが動いたときに、勝手に」
「いやああああ!」
 わたしは耳を塞いで頭を振った。