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2006-03-06
それのことはそれに訊け
「だめだ〜。社員が何考えてるかわからんよ」
 幼馴染であり、小企業の社長でもある友が嘆いた。
「なんだ、どうした。言ってみろよ」
 平社員のおれが訊く。
「最近不況だろう? 
カネもろくに出せない残業でムリをしてもらってるから、
せめてものねぎらいにとみんなを飲みに連れてったんだ」
「そしたら全然盛り上がらなかった、と」
 驚いたようにおれを見る。

「なんでわかるんだよ」
「なんで……ってなあ。
飲むの好きじゃない奴もいるだろうし……
そもそも社長と飲んだところで楽しいもんじゃないし、
残業続いてるならその日くらいは
帰らせてくれと思う奴もいるし、
飲みに行くくらいならその分をいくらでもいいから
小遣い程度のボーナスとして出して欲しいと思う奴もいるだろ」
 おれが言うと驚き、そして悲しい顔をした。
「それなら言ってくれれば良かったのに」

 基本的には人のいい奴なのはわかってる。が。
「社長が飲みに行くって言ってるのに、
『飲みには行かん。カネをくれ』なんて言えるわけないだろう? 
社員の気持ちなんて社長にはわからんよ。
逆に、社長の気持ちは社員にはわからんさ」
「じゃあ、これからはどうすればいいと思う?」
 こういう風に訊けるのがこいつのいいところだ。
「そういうときに、いい言葉があるじゃないか」
 おれはほほえましくなって答えた。
「『それ』のことは『それ』に訊け、さ」