「だめだ〜。社員が何考えてるかわからんよ」
幼馴染であり、小企業の社長でもある友が嘆いた。
「なんだ、どうした。言ってみろよ」
平社員のおれが訊く。
「最近不況だろう?
カネもろくに出せない残業でムリをしてもらってるから、
せめてものねぎらいにとみんなを飲みに連れてったんだ」
「そしたら全然盛り上がらなかった、と」
驚いたようにおれを見る。
「なんでわかるんだよ」
「なんで……ってなあ。
飲むの好きじゃない奴もいるだろうし……
そもそも社長と飲んだところで楽しいもんじゃないし、
残業続いてるならその日くらいは
帰らせてくれと思う奴もいるし、
飲みに行くくらいならその分をいくらでもいいから
小遣い程度のボーナスとして出して欲しいと思う奴もいるだろ」
おれが言うと驚き、そして悲しい顔をした。
「それなら言ってくれれば良かったのに」
基本的には人のいい奴なのはわかってる。が。
「社長が飲みに行くって言ってるのに、
『飲みには行かん。カネをくれ』なんて言えるわけないだろう?
社員の気持ちなんて社長にはわからんよ。
逆に、社長の気持ちは社員にはわからんさ」
「じゃあ、これからはどうすればいいと思う?」
こういう風に訊けるのがこいつのいいところだ。
「そういうときに、いい言葉があるじゃないか」
おれはほほえましくなって答えた。
「『それ』のことは『それ』に訊け、さ」