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2006-03-07
おねえちゃん
 わたしはだめ人間だった。

 兄の様に頭が良いわけでもなく、
妹のように要領がいいわけでもなかった。
 来年になればもう入試があるのに、
ひとつはまったく覚えられない。

 二年間続いた嫌がらせだって、
その激しさはとどまるところをしらない。
 友達を作ろうとしないから、
相手のいいところを見ようとしないから。
 周りはわたしを責めたてる。

 わたしだって努力はしてる。
勉強だって他の教科は上位に入る。
だって……才能のないわたしにできることなんて、
努力だけしかないんだから。
 でも、それももう最近はつらくなってきた。
 いつまでたっても努力努力。努力は終わるところをしらない。
 こんなこと、いつまで続けなきゃいけないの?
 死ぬまで煮え湯を飲み続けるの?
 それなら……わたしは、もう。

「あ、ひさりぶり」
 家に帰る途中のわたしに、近所のおねえちゃんが声をかけた。
頭も良くて美人で、余裕もあって。
「どうしたの? 最近ちっとも遊びに来てくれないんだもん」
 にこっと人懐こい笑顔を浮かべる。
 ずっと大好きだったけど、見てたら自分が惨めになって、
最近はなんとなく避けるようになってしまっていた。
「ねえ、せっかくだしうちに寄って行って」
 もう、すべてがどうでもよくなっていて。
わたしはおねえちゃんに誘われるままに部屋に上がった。
 おねえちゃんの部屋はおねえちゃんの匂いがして。
 それとなく片付けられた室内はどこかしら優雅な雰囲気がした。

「どう? 最近」
 お茶をテーブルに置くと、なぜかわたしの横に座る。
 最近……? このすてきなひとに、
わたしのなにをどう言えと?
 言葉も出ない間に、おねえちゃんの手が
わたしの頭にそっと触れる。
「痛いね」
 ゆっくりやわらかく、薄くなったわたしの髪をたどった。
 自分で抜いてはただのゴミになっていたものが、
おねえちゃんの一撫ででなにかいとしいものに変わる気がした。
 ぼろりとこぼれる涙。
泣く気もなかったのに勝手に目からこぼれて、
一緒に愚痴までこぼれてしまった。
「うん、うん」
 わたしを抱いて、背中をぽんぽんと叩く手。
「なにもしなくていいよ、つらいならとりあえずやめていいよ」
 わたしの頭に頬を寄せ、染みとおるような声。
「わたしはあなたが生きていてくれるだけで嬉しいから」
 その言葉に思わずこみ上げてしまって、
何年ぶりだろう、声を出して泣いてしまった。