わたしはだめ人間だった。
兄の様に頭が良いわけでもなく、
妹のように要領がいいわけでもなかった。
来年になればもう入試があるのに、
ひとつはまったく覚えられない。
二年間続いた嫌がらせだって、
その激しさはとどまるところをしらない。
友達を作ろうとしないから、
相手のいいところを見ようとしないから。
周りはわたしを責めたてる。
わたしだって努力はしてる。
勉強だって他の教科は上位に入る。
だって……才能のないわたしにできることなんて、
努力だけしかないんだから。
でも、それももう最近はつらくなってきた。
いつまでたっても努力努力。努力は終わるところをしらない。
こんなこと、いつまで続けなきゃいけないの?
死ぬまで煮え湯を飲み続けるの?
それなら……わたしは、もう。
「あ、ひさりぶり」
家に帰る途中のわたしに、近所のおねえちゃんが声をかけた。
頭も良くて美人で、余裕もあって。
「どうしたの? 最近ちっとも遊びに来てくれないんだもん」
にこっと人懐こい笑顔を浮かべる。
ずっと大好きだったけど、見てたら自分が惨めになって、
最近はなんとなく避けるようになってしまっていた。
「ねえ、せっかくだしうちに寄って行って」
もう、すべてがどうでもよくなっていて。
わたしはおねえちゃんに誘われるままに部屋に上がった。
おねえちゃんの部屋はおねえちゃんの匂いがして。
それとなく片付けられた室内はどこかしら優雅な雰囲気がした。
「どう? 最近」
お茶をテーブルに置くと、なぜかわたしの横に座る。
最近……? このすてきなひとに、
わたしのなにをどう言えと?
言葉も出ない間に、おねえちゃんの手が
わたしの頭にそっと触れる。
「痛いね」
ゆっくりやわらかく、薄くなったわたしの髪をたどった。
自分で抜いてはただのゴミになっていたものが、
おねえちゃんの一撫ででなにかいとしいものに変わる気がした。
ぼろりとこぼれる涙。
泣く気もなかったのに勝手に目からこぼれて、
一緒に愚痴までこぼれてしまった。
「うん、うん」
わたしを抱いて、背中をぽんぽんと叩く手。
「なにもしなくていいよ、つらいならとりあえずやめていいよ」
わたしの頭に頬を寄せ、染みとおるような声。
「わたしはあなたが生きていてくれるだけで嬉しいから」
その言葉に思わずこみ上げてしまって、
何年ぶりだろう、声を出して泣いてしまった。