0244
2006-03-16
ツァイガルニクしこり
 その日、ゼミに行くと。
いつも明るい友達がぐんにゃりと机に寄りかかっていた。
「どうしたの?」
 訊ねるわたしに顔をむけ、
「ねえ、知ってた? ツァイガルニクしこりって転移するんだよ」
「ええ? ツァイガルニク効果ってあれでしょ? 
やっちゃった失敗より、
やらなくて失敗したほうがあと引くとかいう……。
しこりってなに?」
「やらない後悔が変質して腫瘍になった感じ」
「あはは、で、どうしたの?」
 聞き返すと体を起こした。

「昨日、同窓会行ったんだ」
「ああ〜、そう言えば休み前に言ってたね」
「そこで、ちょっと告白されてさ」
「うわ〜、おめでとう」
 でも、顔は曇ったまま。
「ところが。『中学の頃、好きだった』って。
……今は? わたしだってちょっといいなと
思ってた子だったのに〜。
いまさら言われてどうすればいいのよ。
あのとき、わたしから言ってればつき合ってたわけ?」
 ぶんぶんと頭を振ると、また机にタコのようにしなだれて、
「向こうは未完了のことが終わっていいけど。
わたしはどうにもできない過去を背負わされた気分ですよ」