0249
2006-03-17
あましょく
「はらへった〜」
 ざしゅ。
「水飲みてえ〜」
 ざしゅ。
 はるか広がる砂の上を、
一人の若者と三人の中年男性が力なく歩いていた。
 一歩ごとに同じ言葉を繰り返す若者に対し、
中年男性たちは言葉すら出せないほど疲れきっていた。

「いまさらこんなことを言うのはなんですけど」
 中年の一人が張り付くのどから声を出す。
「わたし、甘食ならもってますよ」
 肩に提げたポーチから、がさがさと袋を取り出すと、
「よこせ!」
 若者はその袋に飛びつくようにして奪い取り、走り出した。
「やめろ! 一気に食べるな!」
 中年たちは口々に叫んだが、
「うるせえ! 遭難してから二日も食ってねえんだ」
 走りながら袋を開け、口の中にひとつを丸々押し込んだ。

 そのとたん、
「ん……もふっ!」
 足が止まり、若者は砂地に両手をつく。
「う、ぼほっ。む……むぶ……!」
 ごほごほとむせる彼。
中年たちは同情を浮かべた目で見つめる。
「むぶ……」
 彼の頭がゆらぎ、砂の中にどさりと倒れた。
「さすがに甘食は、飲み物なしじゃ食べられんよ」
 中年の一人がつぶやいた。