一般の人はお休みなその日。
ふと気になって流しでおなべをこすっていると、
夫が横からのぞきこんだ。
「なにやってるの?」
「ん? 焦げおとし」
「手伝うよ」
二人で何をやっているのかと思うけれど、
並んでがしがしじゃきじゃき音を立てていると、
娘が足元にやってきた。
「ね〜、動物園つれてって〜」
「ええ? また? おとうさんに訊いてみて」
すると夫の足元に行き、
「ね〜、動物園つれてって〜」
「いやだ」
「え〜」
がっかりとしながらむくれる顔。
「でも、来週で水族館なら行こうか?」
「うん、行く!」
嬉しそうにぱたぱたと駆けていくのを見て、
「ねえ」
わたしは声をかける。
「うん?」
「いつも優しいのに、たまになんだか容赦ないよね。
ずっと思ってたんだけど、それってなんかのかけひきなの?」
「え? なにが?」
「今週はだめで来週とか。動物園じゃなくて水族館とか」
「ああ」
くすっと笑うと、
「ちがうよ。『連れてって』言われて、
『連れてってあげる』なんて言ったら、
言われたから行くだけだし、
なんだか違そうで、違うと思うんだ。
でも、来週なら行く心づもりもできるし、
このまえ行った動物園じゃなくて、
水族館なら自分でもちょっと行ってみたい。
どうせするなら、やらされるより自分でやるほうが
嘘がなくてぼくは好きだな」
なんだかほっとためいきがもれた。
「そんなあなたがわたしは好きだな」
頭を夫の肩に乗せると、
「あたしも好き〜」
いつからいたのか、足元から娘の声がした。
「わぁ、いたの?」
急にはずかしくなるわたしに、にっこり。
「そんなふたりがぼくも好き。奥様、お姫さま」
あの人がわたしと娘の頭をなでる。
それはとても幸せで。
こんな日が続いて欲しいとわたしは願った。