0278
2006-03-27
悪魔の子ら
 一人の女が人心を惑わす魔女として神の名の下、
人間の男によって裁かれようとしていた。
 仰々しい服に身を包んだ男は言った。
「このまま疑いをかけられて死ぬのは本意ではなかろう。
そこで最後に身の潔白を晴らす機会をやろう」
 男は縛られ地面に転がる女を見下し、
「これからおまえの身を聖なる火にかけよう。
おまえが魔女ならば苦しみぬき、叫びとともに死ぬはず。
だが魔女でないならば火の中でも生きているだろう」
『火にかけられて生きている者こそ人間ではない!』
 女は叫ぼうとしたが、くつわがうめきへと変えてしまう。
『なぜ、なぜ気づかないのです!』
 声にならぬ音をあげ続けていると、
「なんだ、何か言うことでもあるのか?」
 口のくくみを外され、彼女は叫んだ。

「この男こそ悪魔です! 
悪魔はたびたび聖なるものに化けてきました。
この男こそを聖なる火に焼き、
身の証を立てさせなければいけません!」
 彼女の持つ言葉はそれがすべてだった。
 祈るように、心を奮わせるように男をにらむと、
どこからか上がる声を彼女は聞いた。
「そんなもんはどうだっていい」
 声の主を探し、彼女は心が崩れるのを止められなかった。
 顔は違えど同じ表情をする群れ。
 彼女はそこに悪魔以外の何者も見つけることはできなかった。