一人の女が人心を惑わす魔女として神の名の下、
人間の男によって裁かれようとしていた。
仰々しい服に身を包んだ男は言った。
「このまま疑いをかけられて死ぬのは本意ではなかろう。
そこで最後に身の潔白を晴らす機会をやろう」
男は縛られ地面に転がる女を見下し、
「これからおまえの身を聖なる火にかけよう。
おまえが魔女ならば苦しみぬき、叫びとともに死ぬはず。
だが魔女でないならば火の中でも生きているだろう」
『火にかけられて生きている者こそ人間ではない!』
女は叫ぼうとしたが、くつわがうめきへと変えてしまう。
『なぜ、なぜ気づかないのです!』
声にならぬ音をあげ続けていると、
「なんだ、何か言うことでもあるのか?」
口のくくみを外され、彼女は叫んだ。
「この男こそ悪魔です!
悪魔はたびたび聖なるものに化けてきました。
この男こそを聖なる火に焼き、
身の証を立てさせなければいけません!」
彼女の持つ言葉はそれがすべてだった。
祈るように、心を奮わせるように男をにらむと、
どこからか上がる声を彼女は聞いた。
「そんなもんはどうだっていい」
声の主を探し、彼女は心が崩れるのを止められなかった。
顔は違えど同じ表情をする群れ。
彼女はそこに悪魔以外の何者も見つけることはできなかった。