「好きです」
夕方の委員会室。おれはずっと憧れだった先輩に言った。
「付き合ってください」
余計な突込みを入れさせない心遣いもばっちりだ。
だが先輩は、
「付き合うって、どうすること?」
まっすぐな目でおれを見て訊いた。
ええっ?
「それは……その……。一緒に学校から帰ったり、
一緒にお昼食べたり……」
「学校から帰ったりとか、お昼食べたりとかに
付き合ってってこと?」
そうなのかな……。いや、ちがう!
「違いますよ。そんな行き当たりばったりじゃなくて、
もっと長く、たとえば休みには、
その……そこらへん一緒に歩いたりとか、
そばにいても不自然じゃない関係になりたいというか……」
「お休み? 誘ってくれれば一緒に行くよ。
でも、付き合うと急に、そばにいても不自然じゃなくなるの?」
そうじゃないんだ。
ただおれは……一緒に帰ったり手をつないだり、
うっかり肩も抱いちゃったり髪を指ですくったり。
夜には電話の電池が切れるまでくだらない話をしたり、
受話器の向こうでパジャマ姿でいる先輩を想像して
どきどきしたり、それを友達に冷やかされて
どぎまぎしながらちょっと優越感にひたってみたり……って、
何考えてんだかわからんなくなってきたぞ、もう。
「ねえ?」
先輩はすこし悲しげな目をしておれの目を見つめると、
「ほんとに求めるのはわたし?
それとも、『わたしと付き合ってる』っていう確信?」
そう言われると、先輩自身だと言い切ることはできなくて。
謝りながら走って逃げて、部屋の中、一人で泣いた。