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2006-03-30
セカンドレイプ
 一緒に遊びに行くはずだった友達から
連絡が来ないまま二時間が過ぎた。
 何度電話をかけてもつながらず、
心配になって家まで行くと、
チャイムの反応はなにもないのに
電気のメーターは人がいるような動きを見せている。

 ――もしかして、中で倒れてる?
 ぞっとしながらもひたすらチャイムを鳴らし続けて、
管理人を探さなきゃだめだという結論に向かい始めた頃、
ようやく中から鍵が開く音が聞こえた。
 後ろに下がって見ていると、
ゆっくりと、でもほんのすこしだけ扉が開いて、
隙間の向こうにはバスローブを着た友達が
頭からもしずくを落としながら
青い顔に変な薄い笑みを浮かべてうつむいていた。
「ちょっ……! どうしたの!」
 中に入って鍵をしめ、肩を抱くと、
体を拭くでもなく羽織ったバスローブを通して
おかしいくらいの冷たさが伝わってくる。

「ごめんね、おくれちゃって」
 ぶるぶると震えながら、顔をそらしてつぶやいた。
「ちょっと……なにあった?」
 肩をつかんで顔をのぞきこもうとすると、
目を合わせたくないように顔をそらす。
 その横顔には殴られたような痕。
「ひどいこと、された、の?」
 ためらいながらも訊ねると、彼女の顔から涙が落ちた。
「うえぇ……」
 ぼろぼろと涙を落としながら、声をあげて泣き始める友達。
 わたしは悔しくて苦しくて、彼女を抱きしめた。
「濡れちゃう……濡れちゃうよ」
 弱々しく逃げようとするけれど。
「ばか! こんなときに人のことまで気にするな!」
 冷たい体を温めるように、強く強く抱いてわたしは泣いた。

 彼女をすこし落ち着かせて、
警察につれていったのはそれから何時間か経ってからだった。
ただなんとかしてほしい、助けて欲しい。
漠然とそんな気持でいた。
 夜中なのにそれなりに人がいる警察署の中、
友達を残してわたしは窓口に近づく。
「どうかしましたか?」
 若い感じの制服を着た男に声をかけられ、
わたしは言葉を選びながらこたえた。
「あの……友達が……乱暴されて……」
 友達に聞こえないように、声は自然に小さくなる。
 なのに、その男は後ろにいる友達の方を見ると、
なんでもないように言い放った。
「ああ、レイプですか」
 言葉を失うわたし。でも男は続ける。

「なんでシャワー浴びたんですか。
精液でも唾液でも残ってないと、
調べるだけむだになっちゃうでしょうに」
 ……目の前が真っ暗になっていく気がした。
 自分の体をむりやり穢されて、
その痕跡をどんな気持ちで残しておけと?
 怖くて悲しくてつらくて。
そんな気持ちを流すようにシャワーを浴び続けた
あの子の気持ちのひとかけらもわからないの?
 そして、後ろを向いて叫んだ。

「すいません、だれか対応お願いできますか? 
そこにちょっと、レイプされたって人が来てますから」
 周りにいた、普通の人たちもいっせいに彼女を見る。
 好奇の目、侮蔑の目、容赦なく彼女を辱める視線。
 彼女はこわばった体をぶるぶると振るわせると、
外に向かって走り出した。
 わたしもあわてて後を追い、
すこし走って彼女の後ろ手をつかまえる。
「う……」
 悔しそうに声を殺して泣く彼女。
「ごめん、ごめんね……」
 謝りながら、わたしはただ彼女を抱いた。
 助けてくれると思ってた。何とかしてくれると思ってた。
 でも受けたのはレイプに等しい辱めだけだった。
 悔しくて悔しくて。わたしはただバカは死ねと祈り続けた。