0313
2006-04-05
じっぱひとからげ
「なあ、見たか」
 朝っぱら、新聞を読む同僚が声を出した。
「ああ、あれだろ。どこぞの有名人を総務に雇うっていう」
「ぼちぼち来てればいいから
普段の活動の方をやれとは、さすが総務。
やっぱ普段からろくな仕事なんてしてないよな」
 同僚が言うと、
「冗談じゃないですよ」
 後ろから声がした。
見れば郵便を差し出す、総務の女の子。

「手紙のしわけとか電灯の交換だとか、
なにやってるんだろうと思いながら毎日いっぱいいっぱいですよ」
「へえ。じゃあ、なんであんな使えない奴を雇うんだろな」
 すると女の子はがっくりと肩を落とす。
「たとえばみなさんが相手企業のお偉いさんで、
どこの会社と契約してもまったく困らないとしたら、
相手はどうやって選びます?」
「そりゃ、何かひとつでも……」
 自分の言葉に、おれも同僚もぎくりとした。

「ですよね。そういうところに同席して、
握手やサインに話でもして、契約とれちゃうみたいですよ」
 大口の相手なんてよっぽどじゃなきゃ
行く事すらむずかしいのに、
有名人だからって新人が行って、結果を出せるのか。
「だとしたら、おれたちって……」
「言うな」
 朝からひどくげんなりとした気分になった。