ひらひらと、淡い花びらが雪のように
そっと降りては地を彩る。風に揺れては濃く薄く、
その人の足元で遊ぶように桜色が綾を作っていた。
――ざあっ。
柔らかな髪を揺らし、はかなげな枝を震わせ、
朝の冷たい空気が風花のように花片を散らす。
軽く身をすくめ、それでも柔らかな笑みを浮かべて
まぶしそうに目を細める姿。
ただ一瞬、空っぽの頭の奥に像を結ぶ風景を焼き付けながら、
わたしはぽかんと立ち尽くしていた。
ほのかな花の香り、穏やかな陽の光。
流れる髪に映る色がわたしの中で永遠へと
澄み切っていくのがわかる。
行かないで、そのままでいて――
ずっと見ていたいのに。この時間がずっと続けばいいのに。
けれど、あの人は一歩一歩、花を愛しみながらも
歩いて来てしまう。
……息が詰まる。
胸にあるこの疼きはなんだろう。
もどかしいような、焼け付くような、
せかされるようなこの気持ち。
わたしに気づいたあの人は、優しげな笑みを浮かべ、
小さく会釈をして通り過ぎる。
こぼれるかすかな香り。
ああ、声をかけたい。声をかけなきゃ。
胸に握る手、熱を持つ頬に、回ってしまいそうな頭。
息を止め、心にまだ残る言葉を探し――
わたしは、搾り出すように、声を出した。