0328
2006-04-11
言えないこと
 文化祭の出し物の打ち合わせが長引いて、
委員の四人でファミレスへ。
 飲み放題のドリンクだけ注文すると、
それぞれ飲み物を取って男女で向かい合って席に着いた。
 冷えたオレンジジュースを傾ける向こう、
カップに入った黒い液体に喜々として
細い紙袋の中身を注ぎ込む奴がいる。

「おい」
「なに?」
 髪を揺らしておれを見る。
「そんなに砂糖をぶちこんで、キミは何を飲むつもりだね?」
 訊ねると一瞬すごい顔をして、
「い、いいじゃない。カロリーないんだし」
 小さくふくれた。
 それからいくつも持ってきたクリームを開けては
中身を入れて、黒いコーヒーは
薄いおうど色へと姿を変えようとしていた。
「おい」
「なによう」
「砂糖にカロリーがなくても、クリームそれだけ入れたら
すごいことになってないか?」
 どきりと体を揺らす。
「そ、そういう見方もあるよね」
 ……こいつ、砂糖だけ気にして他のは何も考えてなかったな。

「いいじゃない。普段飲んでるわけじゃないんだし」
 ぐるぐると渦巻きに中身をかき混ぜ、一口。
「あち」
 飲む前に口から離した。
 それから会話しながら手持ち無沙汰にスプーンを中で回し、
ちょっとするとまたカップを口へ。
「あち」
「ぷっ」
 のど渇いてるならまずは熱くないのにすればよかったのに。
かわいいやつだ。
「なんで笑うのよぅ」
 むくれた顔でおれを見る。
「なんで笑うの〜?」
 どこか本気の怒りが滲み出す。
よくわからない逆鱗がそこらへんにあったらしい。
「ちがうよ、ちょ」っとかわいいと思って。

 ……?
 あれ? 声が、声が出ない。
 え? のどが、動かない?
「なんなのよ〜」
 おれをにらむあいつに横から突っ込み。
「たぶん、かわい〜! っとか思ってたんじゃないの?」
 二人でぎくりとそっちを見ると、にやにや笑う顔。
「え、な、なに……」
 そしてあいつはまごつきながら照れたように顔をそむけた。
 そんなところも妙にかわいいと思ったけれど、
そんな言葉、口にできるほどおれの体は
大胆にできていないようだった。