0334
2006-04-13
愛しきもの
 合唱祭も滞りなく続き、とうとう次はわたしたちの
クラスになった。
 周りにたくさん人がいるとはいえ、
なんだかだんだん緊張してくる。
わたしだってこうなんだから、ピアノを弾くあの子は
もっと緊張してるんだろう。

 と、目をやると。
 柔らかな目で開いた生徒手帳を眺め……出番の声がかかると、
ほほ笑んでそれを閉じた。

 合唱は、なかなかだった。

 特に悪いところもなく、ピアノもよかったし、
普段どおりにできたと思う。
 それはさておいて、舞台袖にひっこむとわたしは
友達にかけよった。
「ねえねえ、始まる前にさ、なんか見てたよね?」
「え?」
 すこし驚いて、軽くはにかむ顔にちょっと嬉しくも、
ちょっとさびしくもなる親……友ごころ。
「だれの写真?」
 訊ねると、
「え?」
 きょとんと笑いながら手帳を出した。その中身は、
「こねこ……?」
「お隣の。かわいいでしょ?」
 罪のない笑顔でにこにこ笑った。
「そりゃ、かわいいけどさ……」
 なんだか力が抜けて、わたしはやれやれと肩をすくめた。