0346
2006-04-14
連鎖・断絶
 その義理の父親は、よく娘たちを殴った。
 自分の思い通りに動く彼女たちの母親は好ましかった。
だが、その連れ子は何の役にも立たないどころか
喋りも動きも、存在を感じることさえいちいち気に障る。
 殴ると泣くのも気に入らない。
だまりきって耐えるのも気に入らない。
気を失っているときだけは静かになったので、
いらだったときはよく殴った。
 女の子たちはいつかこどもができたなら、
あんなひどいことはしないと心に誓った。
 そして彼女たちは大人になり、母親になった。
 一人の彼女は、いつかこどもができたなら
あんなひどいことはしないと心に誓い、
その通りに自分のこどもはただ抱きしめ、あたたかく育てた。

 もう一人の彼女は、いつかこどもができたなら
あんなひどいことはしないと心に誓い、
だが何かあればしつけと称してとりあえずこどもたちを殴った。
 その彼女のこどもたちは、いつか自分にこどもができたなら、
こんなひどいことはしないと心に誓った。