暗い舞台の上、二つのスポットライトが二人を照らした。
「待ってよ、このまま何も言わずに行くつもりなの?」
少女が訊ね、テンガロンハットを目深にかぶった男は答えた。
「言ったってしかたないだろう。
止められたって、おれは行くぜ?
もう誰にも止められない――そう、自分でもな。
この疼きだけがおれを駆り立てる」
「いつ、戻ってくるの?」
「そいつは訊くだけ野暮ってもんだ。全部済んだら帰ってくるさ」
「無事で……戻って来てね」
「ありがとよ。なら、行くぜ。予感がそこまで来てるんだ」
背中を向けて歩き出す男に、
「きっと……きっとよ」
少女は震える唇でつぶやき、熱い思いのままに叫んだ。
「ゲーリー! ゲーリー・ベーン!」
男は歩き去り、少女は去りゆく方向を見つめる……。
と、闇を払うようにライトが空間を照らした。
「よし!」
舞台の二人は向き合って喜び合う。
「本番もこんな感じでよさそうだな」
「タイトルも変えないでいいよね?」
「ああ」
『ゲーリー・ベーン 〜トイレへの旅立ち〜』